変愚蛮怒の★の名前のエルフ語を解説してみる(続き)
続き
前の記事からの続きです
★グレート・ソード『ザルクスラ』
- アルファベット表記: Two-Handed Sword 'Zarcuthra'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: ?
- 名前を構成すると思われる単語: ?
ひさしぶりにエルフ語じゃなさそうなやつが来ました。'z' で始まる単語はエルフ語にはほとんど無いです。というか、'z' を含む単語も無い気がします。クズドゥルにもアドゥーナイクにも意味を説明できそうな単語は見つかりませんでした。
★カットラス『ゴンドリカム』
- アルファベット表記: The Cutlass 'Gondricam'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: 石の冠を持つ手
- 名前を構成すると思われる単語:
- S. gond (石, 岩)
- S. rî (花輪, 冠)
- S. cam (手)
直訳すれば「石の冠の手」という意味になりそうですが、「石の冠を持つ手」とでも意訳した方がいいんでしょうかね。
★首切りソード『クリスドゥリアン』
- アルファベット表記: The Executioner's Sword 'Crisdurian'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: 闇の土地を切り裂くもの
- 名前を構成すると思われる単語:
なんかエルフ語らしくない響きの名前だなと思いながら単語を探してみたら、それらしき単語が意外にも全部見つかりました。 criss, dûr, -ian (切断, 闇, 土地) です。ただ、これをそのまま順番に繋げても、「切断の闇の土地」などというよくわからない名前になってしまいます。
スリングウェシル (S. Thuringwethil / 秘密の影の女) のように、そのまま順番に繋げれば正しい意味になる名前も、もちろんあります (S. thurin (秘密), S. gwath (影), S. -iel (女性名接尾辞)) 。しかし、そうではない名前も多いのです。★ナルサンクのところで触れたオスギリアス (S. Osgiliath / 星々の砦) が一例です。これも分解すれば ost, gil, -ath (砦, 星, 複数形接尾辞) ですが、まず gil と -ath がくっついて giliath (星々) になっています。
そういうわけで、クリスドゥリアンも、まず dûr と -ian くっついて durian (闇の土地) になり、それが criss にくっついて「闇の土地を切り裂くもの」になるのが自然だと思います。
★カタナ『アグララング』
- アルファベット表記: The Katana 'Aglarang'
- ゲーム内で説明されている意味: 誉の鋼
- 正しいと思われる意味: 光輝の鉄
- 名前を構成すると思われる単語:
aglar には「栄光」と「光輝」という二つの意味がありますが、 ang (鉄) とくっつくなら「光輝」の方が自然だと思います。
そういえばグアサング (S. Gurthang) って「死の鉄」って意味なんですね。
★レイピア『フォラスギル』
- アルファベット表記: The Rapier 'Forasgil'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味:
狩猟の星, 北の星 正しいと思われる名前: ファラスギル ( Farasgil )- 名前を構成すると思われる単語:
foras という単語は辞書に載っていませんでした。タイプミスなのでしょうか。だとしたら、一文字違いで faras という単語がありました。「狩猟」という意味です。
2016/12/24 追記
なるほど。 forn (北) など、北に関する単語で for で始まっている単語はとても多いです。 -as は★カルランマスのところに出てきた抽象名詞接尾辞でしょうか。
トールキン作品内に北極星のエルフ語名が無いか探してみましたが、残念ながら見つけられませんでした。 Forasgil が北極星を意味するかまでは分かりませんが、少なくとも「北の星」ぐらいの意味があるのは間違いなさそうです。
★サーベル『カレス・アスドリアグ』
- アルファベット表記: The Sabre 'Careth Asdriag'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: ?
- 名前を構成すると思われる単語: ?
お、ビオ略の「*band私家版用語集」に記事 がありますね。まずは引用します。
「アスドリアグ族」というのはICE設定に記述が見られ、中つ国の奥地に住む東夷バルホスの一種族とされ
へー。IECというのは、MERP (中つ国ロールプレイング) を出しているIron Crown Enterprises 社のことです。
もしエルフ語であるとすれば、asdri- (astar-)は「剛勇なる」といった意味であり、アスドリアグは「勇猛たる一族」、またカレス・アスドリアグは「アスドリアグの流血」といった意味になると思われる
うーん? Eldamo.org以外の辞書サイト (Hiswelókë と Parf Edhellen) でも調べてみましたが、裏付けは取れませんでした。トゥルカスの別名である「アスタルド」(Q. Astaldo) が「剛勇なる」という意味ですが、綴りは近からずも遠からずといった具合です。「流血」という意味の単語は見つかりませんでしたが、「血」なら S. sereg, S. agar, Q. sercë, Q. yór があります。しかし、どれも careth とはかすりもしません。
★ハルベルト『オソンディア』
- アルファベット表記: The Halberd 'Osondir'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: ?
- 名前を構成すると思われる単語: ?
綴りの雰囲気はエルフ語っぽいです。ですが、調べて見つかった単語は・・・、 S. os (〜について), S. -on (男性名接尾辞), S. dîr (男性名接尾辞) 。綴りは一致するものができましたが、意味はぐちゃぐちゃです。
クウェンヤでしょうか? 調べてみましたが・・・、 Q. ossë (恐怖), Q. -(n)dur (召し使い) 。 Ossëndur ? 「恐怖の召し使い」? 綴りはちょっと遠いですね。
★パイク『ティル=イ=アルク』
- アルファベット表記: The Pike 'Til-i-arc'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: ?
- 名前を構成すると思われる単語: ?
なんだこれ。 til も arc も辞書には載っていませんでした。
★バトル・アックス『ロサラング』
- アルファベット表記: The Battle Axe 'Lotharang'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: 鉄の王の花
- 名前を構成すると思われる単語:
ar- は王の名前などによく付くことがある接頭辞です。アルヴェドゥイ (Arvedui / 最後の王) がその例です。 Arang も同様に王の名前である可能性がありますが、トールキン作品にはこのような名前の登場人物はいません。
★ブロード・アックス『バルクケレド』
- アルファベット表記: The Broad Axe 'Barukkheled'
- ゲーム内で説明されている意味: 鏡の斧
- 正しいと思われる意味: ガラスの斧
- 正しいと思われる名前: ブルクケレド ( Burkukheled ), バルクケレド ( Barkukheled )
- 名前を構成すると思われる単語:
- Kh. bark (斧)
- Kh. kheled (ガラス)
変愚蛮怒では唯一のクズドゥル名の★です。
指輪物語に登場するケレド=ザラム (Kh. Kheled-zâram) という湖は、作中でも「鏡の湖」という意味だと説明されていますが、 kheled 自体の意味は「鏡」ではなく「ガラス」だそうです。マジか。
Baruk は「斧」という意味ですが、語形に少し問題があります。これは複数形なのです。また、Eldamo.org では単に「斧」だとされていますが、「〜の斧」という説も有力です。(クズドゥルは「○○」と「〜の○○」の語形が異なるという説があります。)
クズドゥルの文法はエルフ語ほど詳しく判明しているわけではありませんが、世界最大級のトールキン言語解説サイト Ardalambionの記事 によると単数形の「〜の斧」は burku 、あるいはクズドゥル専門サイト The Dwarrow Scholarの辞書 によると barku だそうです。
★大鎌『アヴァビア』
- アルファベット表記: The Scythe 'Avavir'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: 拒否の宝石
- 名前を構成すると思われる単語:
- S. avad (拒否, 不承不承)
- S. mîr(宝石)
シンダリンには 'v' で始まる単語はほとんどありません。ただし、'b' か 'm' で始まる単語は、他の単語の後ろにくっついた場合に最初の文字が 'v' になることがあります。したがって、 vir のもとの形は bir か mir です。そして、 bir という単語は無いので mir が正解です。
そういえば、この mir はボロミア (S. Boromir)とファラミア (S. Faramir) 兄弟の mir と同じはずですが・・・ん? この二人の mir はシンダリンじゃなくてクウェンヤの mírë (宝石) なの? マジかー。だから 'v' になってないのかー。
★フレイル『トティラ』
- アルファベット表記: The Flail 'Totila'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: ?
- 名前を構成すると思われる単語: ?
なんだこれ?
★メイス『タラトル』
- アルファベット表記: The Mace 'Taratol'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: 頑丈な島
- 名前を構成すると思われる単語:
なんだこれ?? いや、これは単語が見つかりました。初見でエルフ語っぽくないなと思いましたけど。しかし、「頑丈な島」? なんだそれ??
★クォータースタッフ『ナル=イ=バギル』
- アルファベット表記: The Quarterstaff 'Nar-i-vagil'
- ゲーム内で説明されている意味: 燃える星
- 正しいと思われる意味: 剣の火
- 正しいと思われる名前: ナル=イ=ヴェギル ( Nar-i-vegil )
- 名前を構成すると思われる単語:
nar はシンダリンの naur の省略形かクウェンヤの nár でしょう。どちらにせよ「火」という意味です。
i は関係詞、英語でいう that とか what とかです。複数の単語からなる名前は、どの単語がどの単語を修飾するかのルールが曖昧でしたが、関係詞があると明確になります。 Nar-i の時点で、英語で言うなら "Fire that (is)" ぐらいの意味になるので、「火の○○」の可能性は消えて「○○の火」だけになります。
さて、その○○の部分が問題です。ゲーム内で説明されているように「星」(S. gil) を含んでいるとすると、 gil の前の va は何でしょう。★アヴァビアのところで説明したように、 ba か ma が変化したものです。その意味は・・・ S. ma (良し) 。はい、感動詞です。さすがに、名前に感動詞が入ることは無いと思います。 ba という単語は見つかりませんが、 S. baw (だめ) という似た単語はあります。こちらも関係詞です。だめじゃん!
ここまでで、「星」が含まれる可能性は消えました。しかし、 magil という単語も無いです。一文字違いで megil (剣) という単語ならあります。これのタイプミスでしょうか。
以上で、「剣の火」という意味になります。
★クォータースタッフ『エリリル』
- アルファベット表記: The Quarterstaff 'Eriril'
- ゲーム内で説明されている意味: 秀でし輝き
- 正しいと思われる意味: 一つの輝き
- 名前を構成すると思われる単語:
- S. er (一つの)
- √RIL (輝き)
eri という単語は見つかりませんでした。er (一つの) という似た単語ならありました。 Erril だといかにも発音しにくそうなので、間に母音が生えることはそんなに不自然ではありません。
★ルツェルン・ハンマー『トゥアミル』
- アルファベット表記: The Lucerne Hammer 'Turmil'
- ゲーム内で説明されている意味: -
- 正しいと思われる意味: 支配者の愛, 愛の支配者
- 名前を構成すると思われる単語:
単語はすんなりと見つかりました。どっちがどっちを修飾しているのかが問題ですが、「支配者の愛」と「愛の支配者」、どっちもありですね。
★ガントレット『パウアニンメン』
- アルファベット表記: The Set of Gauntlets 'Paurnimmen'
- ゲーム内で説明されている意味: 白き拳
- 正しいと思われる意味: 白き拳
- 正しいと思われる名前: パウアニム ( Paurnim )
- 名前を構成すると思われる単語:
- S. paur (拳)
- S. nim (白い)
- S. -en (形容詞化接尾辞)
★パウラエゲンと同じパターンですね。 nim は形容詞ですが、名詞を形容詞にする接尾辞 -en が付いてしまっています。 Paurnim の方が正しいです。
おわりに
とてつもなく長い記事になってしまいました。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
解説は、可能な限り正確を期しましたが、もちろんこれが絶対に正しいとは限りません。もしかしたら、この記事で「いや、これエルフ語じゃないだろ」みたいな解説をした★に関しても、「え、こんなのも分かんねーの?」思われるような方もいらっしゃるかも知れません。マサカリは大歓迎です。
明日
明日はonget_さんの「demon紹介とか」です。お楽しみに!