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goldarn_ringのブログ

《ネルヤ》という忍殺の指輪 (@goldarn_ring) のブログです。指輪物語の言語ネタの記事とか書きます。

変愚蛮怒の★の名前のエルフ語を解説してみる

はじめに

この記事は Roguelike Advent Calendar 2016 の23日目の記事です。

変愚蛮怒には、★ロング・ソード『リンギル』や★上級王フィンゴルフィンのセスタスなど、トールキン作品に登場する装備や登場人物の名前を冠した装備が多数登場します。これらの装備の名前はほとんどがエルフ語 (シンダリンとクウェンヤ) です。

一方で、★革グローブ『カンベレグ』など、エルフ語らしき名前ではあるけれどトールキン作品には登場しない、*bandオリジナルと思われる装備も多数登場します。これらの装備の多くは、その名前がエルフ語でどんな意味なのか説明されていません。

そこで、この記事では、そのような*bandオリジナルと思われる装備の名前がエルフ語でどんな意味なのかを解説します。(トールキン作品の装備については 中つ国Wiki などをご覧ください。この記事では解説しません。)

目次

解説

この記事執筆時点での最新のa_info.txt に載っている順に解説していきます。

エルフ語の単語には、この記事での初出時には、トールキン言語全般をカバーする辞書サイト Eldamo.org の単語ページへのリンクを張ってあります。単語の前の S. はシンダリンを、 Q. はクウェンヤを表します。

エルフ語でなさそうな名前の★も、何語なのかはっきりとしない物については一応エルフ語として解釈できるか試してみます。

★カルランマスのアミュレット

  • アルファベット表記: The Amulet of Carlammas
  • ゲーム内で説明されている意味: -
  • 正しいと思われる意味: 赤い言語, 赤い舌
  • 名前を構成すると思われる単語:

caran は複合語の一部として使われるときは、car などと省略されることがあります。カルハロス (S. Carcharoth / 赤い顎) などがその例です。

lammas は、 S. lam (舌, 言語) に抽象的な名詞を表す接尾辞 S. -as が付いたものです。 lam だけでは舌と言語どちらの意味にも取れるところに、この接尾辞が付くことによって言語の方のニュアンスが強化されるのだと思います。

2016/12/24 追記

@ZZZ_hdnsさんのツイート より

カルランマスは説明文がA fiery circle of bronze,炎のような首飾りなので、炎の言いかえで舌のほうがしっくりくる気がします。

なるほど。確かに。

★カスパニオンの重鎖かたびら

  • アルファベット表記: The Augmented Chain Mail of Caspanion
  • ゲーム内で説明されている意味: -
  • 正しいと思われる意味: ?
  • 名前を構成すると思われる単語:

さっそくエルフ語かどうか微妙な名前が出てきました。

仮にエルフ語だとすれば、 -ion はクウェンヤでもシンダリンでも「〜の息子」という意味です。たとえばアナリオン (Q. Anárion) は「太陽の息子」という意味です。

ではカスパニオンは? カスパンの息子? カスパンって誰だ。

★軟革よろい『ヒスロミア』

  • アルファベット表記: The Soft Leather Armour 'Hithlomir'
  • ゲーム内で説明されている意味: 霧の宝石
  • 正しいと思われる意味: 霧の洪水の宝石, 霧のこだまの宝石
  • 名前を構成すると思われる単語:

hîth が「霧」で、mîr が「宝石」です。ゲーム内で説明されているように「霧の宝石」という意味なら「ヒスミア」になってしまいます。「ロ」は何でしょう?

まず、 というスバリな単語があります。この場合「ヒスロミア」は「霧の洪水の宝石」という意味になります。

lóm という単語の可能性もありそうです。ドル=ローミン (NS. Dor-lónin / こだまする土地) などベレリアンド北部のシンダリン方言 (North Sindarin) で「こだま」という意味です。この場合は、「霧のこだまの宝石」になります。

★革製スケイル・メイル『サルケットス』

  • アルファベット表記: The Leather Scale Mail 'Thalkettoth'
  • ゲーム内で説明されている意味: -
  • 正しいと思われる意味: ?
  • 名前を構成すると思われる単語: ?

カスパニオン以上に正体不明なやつが来ました。

エルフ語で 'k' という文字が使われることは基本的に無いため、エルフ語ではなさそうです。(例外的に人名では使われることがあります。トゥルカス (Q. Tulkas) など)

何語でしょうか? ドワーフ語 (クズドゥル) には ( thalk ではなく) Kh. thark (杖) という単語ならありますが、続きを訳せません。ettoth って何だ 。ヌメノール語 (アドゥーナイク) にも該当しそうな単語は見つかりません。

★ 鉄ヘルメット『ホルヘンネス』

  • アルファベット表記: The Iron Helm 'Holhenneth'
  • ゲーム内で説明されている意味: 密かなる目
  • 正しいと思われる意味: 閉ざされた窓
  • 名前を構成すると思われる単語:

ゲーム内で説明されている意味が、正しいと思われる意味から、かなりかけ離れています。「密かなる目」という解釈がどこから出てきたのか考えてみます。

「密かなる」に該当する単語は、例えば S. thurin (隠された, 秘密の) でしょうか。しかし Holhenneth という名前にかすりもしません。 hol で始まる単語で「密かなる」に該当しそうな単語はシンダリンにもクウェンヤにも見つかりませんでした。

「目」は、シンダリンで S. hen です。これに S. -ath という複数形を表す接尾辞を付けると henath になり、 henneth とかなり近い形になります。 -ath は双数形を表すのにも使われる接尾辞なので、 henath は「両目」とも解釈できます。これだけもっともらしい解釈ができるので、綴りの違いはスペルミスだとして見逃されたのかもしれません。

★クローク『コルイン』

  • アルファベット表記: The Cloak 'Colluin'
  • ゲーム内で説明されている意味: -
  • 正しいと思われる意味: 青いクローク
  • 名前を構成すると思われる単語:

collluin をそのまま足したら Collluin になるはずですか、複合語になるときに単語の一部が省略されるのはよくあることです。'l'がひとつ減っても気にしない。それ以外はとくに捻りもなく「青いクローク」という意味になります。

そういえばドラウグルイン (S. Draugluin) って「青い狼」って意味なんですね。

★クローク『ホルコレス』

  • アルファベット表記: The Cloak 'Holcolleth'
  • ゲーム内で説明されている意味: -
  • 正しいと思われる意味: 閉ざされたクローク
  • 名前を構成すると思われる単語:
    • S. hollen (閉ざされた)
    • S. coll (クローク)
    • S. -eth (女性名接尾辞)
    • S. -th (抽象的名詞接尾辞)

hollencoll はすでに見た単語ですね。

-eth は女性の名前に付く接尾辞です。指輪物語にはヨーレス (S. Ioreth / 老女) という名前のキャラがいますが、この人は若い頃からこの名前だったんでしょうか。この接尾辞が coll (クローク) に付いてクローク女。なにそれ妖怪?

接尾辞は -eth ではなく -th という可能性もあります。これならクローク女とかいう妖怪は出てきませんが、抽象的なクロークって何なのという問題が出てきます。ちなみに、 S. henneth (窓) も S. hen (目) に -th が付いたものだそうです。抽象的とは……。

★クローク『コランノン』

  • アルファベット表記: The Cloak 'Colannon'
  • ゲーム内で説明されている意味: -
  • 正しいと思われる意味: 門のクローク
  • 名前を構成すると思われる単語:

とくに解説すべきこともなく「門のクローク」です。

S. anna- (与える) という動詞の一人称単数現在形も annon になりますが、ここで使われているのは普通に「門」の方でしょう。

★革グローブ『カンベレグ』

  • アルファベット表記: The Set of Leather Gloves 'Cambeleg'
  • ゲーム内で説明されている意味: 剛き掌
  • 正しいと思われる意味: 力強い手
  • 名前を構成すると思われる単語:

「掌」と「手」という微妙な違いはありますが、だいたニュアンスは合っています。

★革グローブ『カンミスリム』

  • アルファベット表記: The Set of Leather Gloves 'Cammithrim'
  • ゲーム内で説明されている意味: -
  • 正しいと思われる意味: 灰色の民の手, シンダールの手
  • 名前を構成すると思われる単語:

指輪物語以外のファンタジーでもよく見かけるミスリル (S. mithril) は「灰色の輝き」という意味です。

-rim は複数形を表す接尾辞ですが、とくに種族、人種、民族によく使われます。例えばロヒアリム (S. Rohirrim) などです。

ミスリム (S. Mithrim) は直訳すれば「灰色の民」ですが、シンダール (Q. Sindar) のシンダリン訳でもあります。

ガントレット『パウアハッハ』

  • アルファベット表記: The Set of Gauntlets 'Paurhach'
  • ゲーム内で説明されている意味: 跳ねる炎の拳
  • 正しいと思われる意味: 跳ねる炎の拳
  • 正しいと思われる名前: パウアラハ ( Paurlach )
  • 名前を構成すると思われる単語:

おそらくAngband時代からのタイプミスが今まで残り続けている残念な★です。エルフ語には hach という単語は無いようです。 lachタイプミスでしょう。

キーボード上でもそこそこ離れているLとHでなぜタイプミスが起きたのでしょうか。この名前を考えた人は最初 lhach と打ちたかったのかも知れません。

シンダリンの単語は、複合語の中で他の単語の後ろにくっつく時、先頭の子音が複雑な変化をすることがよくあります。 例えば、シンゴル (S. Thingol) は S. thind (灰色の) と S. coll (クローク) からなる名前ですが、 coll の先頭の 'c' が 'g' に変化しています。

これと同様に 'l' は 'lh' になるはずと考え、 lhach と打とうとしたがタイプミスによって hach になってしまった。そう推測できます。しかし、残念、 'l' ってそういう変化が起きない子音なんですよねー……。そういうわけで、 Paurhach でも Paurlhach でもなく、 Paurlach が正しい綴りのはずです。

俺も残念なツイートしてたよ!

ガントレット『パウラエゲン』

  • アルファベット表記: The Set of Gauntlets 'Pauraegen'
  • ゲーム内で説明されている意味: 鋭き拳
  • 正しいと思われる意味: 鋭き拳
  • 正しいと思われる名前: パウラエグ ( Pauraeg )
  • 名前を構成すると思われる単語:
    • S. paur (拳)
    • S. aeg (鋭い)
    • S. -en (形容詞化接尾辞)

-en は名詞を形容詞にするときに使われる接尾辞です。しかし、 aeg はもともと形容詞なので、ここでは不要です。 Pauraeg の方が文法的には正しいでしょう。

ガントレット『パウアネン』

  • アルファベット表記: The Set of Gauntlets 'Paurnen'
  • ゲーム内で説明されている意味: 水の拳
  • 正しいと思われる意味: 水の拳
  • 名前を構成すると思われる単語:

はい。水の拳ですね。

ダガー『ナルサンク』

  • アルファベット表記: The Dagger 'Narthanc'
  • ゲーム内で説明されている意味: 焔の牙
  • 正しいと思われる意味: 分岐した火, (焔の牙)
  • 名前を構成すると思われる単語:

指輪物語に登場するサルマンの居城オルサンク (S. Orthanc) は作中でも「牙の山」という意味だと説明されていますが、 thanc 自体には「牙」という意味は無いそうです。それどころか、名詞ではなく形容詞だそうです。マジか。

naur は単語の先頭に付くときは nar という形に変化することがよくあります。クウェンヤだと火は nár なので、こっちの可能性もあります。

thanc の意味が「牙」だと仮定すれば、 Narthanc は「焔の牙」で正しいです。

仮定の話をもう少し続けます。 Orthanc (牙の山) と Narthanc (焔の牙) を見比べてみましょう。何かがおかしいです。気付きますか? そう、二つの単語をくっつけた場合、前の単語と後ろの単語、どっちがどっちを修飾するのでしょう? 両方とも thanc は後ろに付いているのに、一方は「牙の○○」で、もう一方は「○○の牙」です。

じつは、どっちが修飾するかというルールは、以下のツイートのように非常に曖昧です。

このツイートは名詞+形容詞の場合ですが、名詞+名詞でもゴンドール (S. gond/石,岩 + S. dôr/土地 = S. Gondor/ 石の土地) のかつての首都がオスギリアス (S. ost/砦 + S. giliath/星々 = S. Osgiliath/星々の砦) だったりと曖昧です。

したがって、 Narthanc は「焔の牙」ではなく「牙の焔」という可能性もあります。「焔の牙」方が自然でしょうけど。まあ、そもそも「牙」ではないのですが、あくまで仮定の話として。

ダガー『ニムサンク』

  • アルファベット表記: The Dagger 'Nimthanc'
  • ゲーム内で説明されている意味: 白き牙
  • 正しいと思われる意味: ?, (白き牙)
  • 名前を構成すると思われる単語:
    • S. nim (白い)
    • S. thanc (分岐した, 裂けた, 割れた)

thanc の意味が「牙」だという前提が崩れてしまったので、おかしなことになっています。名前に名詞が含まれていませんし、形容詞で形容詞を修飾してしまっています。

仮に thanc の意味が「牙」だとすれば、 Nimthanc は「白き牙」で正しいです。

ダガー『デサンク』

  • アルファベット表記: The Dagger 'Dethanc'
  • ゲーム内で説明されている意味: 黒の牙
  • 正しいと思われる意味: 分岐した恐怖, (恐怖の牙)
  • 名前を構成すると思われる単語:
    • S. del (恐怖)
    • S. thanc (分岐した, 裂けた, 割れた)

仮に thanc の意味が「牙」だとしても、よくわからないのがこいつです。

S. de という単語はありますが、意味は「あなた」です。Dethanc は「あなた牙」? それはないでしょう。それに、 de の初出とされている一次資料はPE17 (Parma Eldalamberon 17) です。これが出版されたのは2007年で、Angbandのリリースよりもずっと後です。

de で始まる単語のリストを見ていると、del (恐怖), S. deloth (憎悪, 嫌悪), S. deleb (おぞましい, 忌まわしい), S. delu (致命的な, 恐るべき) といった単語が目立ちます。 Dethancde は、おそらくこのあたりの単語の省略形なのでしょう。

★リリアのダガー

  • アルファベット表記: The Dagger of Rilia
  • ゲーム内で説明されている意味: 地獄の輝き
  • 正しいと思われる意味: 深淵の輝き, 輝きの深淵
  • 名前を構成すると思われる単語:

は、「地獄」と訳すのは少し意訳しすぎな気がします。訳すなら「深淵」くらいでしょう。

√RIL はシンダリンとクウェンヤに別れる前のエルフ語の語根で、「輝き」という意味です。アンドゥリル (Q. Andúril / 西方の炎) の ril もこれです。

指輪物語にはモリア (S. Moria / 黒い坑) という地名が登場します。こっちの語順に合わせて「輝きの深淵」の可能性もありそうです。

★バスタード・ソード『カルリス』

  • アルファベット表記: The Bastard Sword 'Calris'
  • ゲーム内で説明されている意味: -
  • 正しいと思われる意味: 光を切り裂く者
  • 名前を構成すると思われる単語:

ビオ略の「*band私家版用語集」の記事 によると「光を切り裂く者」という意味だそうです。うん、合っていると思います。MERP (中つ国ロールプレイング) では「ドゥリンの禍」の剣だそうです。へー。

続く

長くなりすぎたので記事を分割します。

次の記事 に続きます。